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浦和地方裁判所 昭和59年(ワ)1225号 判決

原告 平野輝雄

〈ほか三名〉

右四名訴訟代理人弁護士 森謙

同 森重一

被告 清水馨

右訴訟代理人弁護士 新井彰

主文

一  原告ら及び参加人が別紙物件目録(一)記載の土地につき同目録(二)記載の土地を要役地とする通行のための地役権を有することを確認する。

二  被告は原告ら及び参加人が同目録(一)記載の土地を通行することを妨害してはならない。

三  被告は原告ら及び参加人に対し、同目録(一)記載の土地のうち別紙検証見取図記載のとを直線で結んだ線に沿って設置した竹製の垣根、および同検証見取図記載のを直線で結んだ線によって囲まれた部分に設置されている木製のベランダ風の工作物を撤去せよ。

四  訴訟費用は被告の負担とする。

五  この判決は、第三項につき仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告ら及び参加人の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告ら及び参加人の負担とする。

第二当事者の主張

第(一)請求原因

一  原告平野は昭和四八年七月二四日訴外遠藤孟範から同人所有の別紙物件目録(二)記載の土地(以下原告ら所有地という)のうち一、の土地を、原告岡島は同年八月二五日訴外竹下武志から同人所有の原告ら所有地のうち二、の土地を、参加人は昭和六〇年三月二二日脱退前原告久野久から同人所有の原告ら所有地のうち三、の土地を、それぞれ買い受け、以後現在まで右土地をそれぞれ所有している。

二  被告は、同目録(一)記載の土地(以下本件土地という)を所有している。

三  地役権設定契約

(一)  原告ら所有地および本件土地を含む被告所有地は、昭和四一年二月九日当時訴外鈴木正太郎の所有する土地で一筆の土地であったところ、昭和四一年九月ころ訴外鈴木正太郎は、同土地を訴外伊藤藤夫に売却した。

(二)  訴外伊藤藤夫は同土地を宅地造成し昭和四二年六月ころから、同宅地造成した土地を本件土地を含む被告所有地および原告ら所有地に分割し、訴外株式会社大崎工業所等に売却した。

(三)  別紙検証見取図記載のを直線で結んだ線によって囲まれた部分(以下私道部分という)は、右で述べた宅地造成をした昭和四二年ころから、隣接土地所有者の通行のための道路として通行の用に供されていた。

(四)  加えて、右私道部分は訴外伊藤藤夫が宅地造成した昭和四二年六月ころから現在まで、通行のための道路として客観的に明確であり、右私道部分に隣接する要役地所有者が継続して通行の用に供されていた。すなわち、

(五)  右私道部分のうち別紙検証見取図記載のを直線で結んだ線によって囲まれた部分(以下階段部分という)は、訴外伊藤藤夫が宅地造成した時に建造したコンクリート造りの階段である。

(六)  右私道部分のうち別紙検証見取図記載の点と点を結んだ線上に設置されている階段は、訴外伊藤藤夫が宅地造成した時に建造したコンクリート造りの階段である。

(七)  更に、右私道部分のうち別紙検証見取図記載のを直線で結んだ線によって囲まれた部分(以下原告ら共有地という)は、昭和四八年五月二一日分筆されて原告らの共有持分となっている。しかし、同時期に本件土地も分筆して私道とするよう手配をしていたのであるが、当時本件土地の所有者の所在が判明せず、そのため本件土地の分筆登記が完成しなかったのである。

(八)  被告が本件土地を含む被告所有地を昭和五三年二月二日訴外楠生聰から買い受けた当時、本件土地の現況は前記(三)ないし(七)に述べたような状況にあったから、被告は同土地を取得するに当たり、当時の原告ら所有地の所有者であった原告らおよび訴外久野久から、同人らが原告ら所有地を買い受けた当時から本件土地を含む私道部分を通路として維持管理を利用することにより本件土地所有者に対し本件土地を原告ら所有地のための通路として利用する地役権の設定の黙示的な申込を受け、これを黙示的に承諾したというべきである。

四  通行地役権の時効取得

(一)  仮に地役権設定契約が認められないとしても、原告ら及び参加人は前記一記載のとおり原告ら所有地を取得し、その頃から本件土地を原告ら所有地から公路に出るための道路として、原告らの費用で維持管理をして利用してきたもので、本訴の第一回口頭弁論期日であった昭和五九年一二月二四日ころも、いずれも通路として利用していた。

(二)  本件土地を含む私道部分は、昭和四三年ころから訴外竹下武志、脱退前原告久野久および原告らが、砂利を敷いたり、破損箇所を補修したり、または排水管を敷設する等の工事をして維持管理してきた。

(三)  本件土地を含む私道部分が通行のための道路として客観的に明確である事実は、前記三、(三)ないし(七)を援用する。

(四)  原告ら及び参加人は、本件土地につき通行地役権を有していたと信ずるにつき過失がなかった。すなわち、

(五)  原告ら所有地は昭和四二年ころ訴外伊藤藤夫が宅地造成したうえ昭和四三年ころ、原告ら所有地の

1 うち一、の土地を訴外伊藤藤夫から訴外遠藤孟範へ、昭和四八年七月二四日訴外遠藤孟範から原告平野へ、

2 うち二、の土地を訴外伊藤藤夫から訴外竹下武志へ、昭和四八年八月二五日訴外竹下武志から原告岡島へ、

3 うち三、の土地を訴外伊藤藤夫から訴外菅清へ、昭和四九年三月六日訴外菅清から脱退前原告久野久へ、昭和六〇年三月二二日同久野久から参加人へ、

それぞれ所有権が移転したものである。

(六)  右各土地の所有権が移転する際、各譲渡人と各譲受人は、前記三、(三)ないし(七)記載のような現況を確認するとともに、本件土地につき原告ら所有地を要役地とする通行のための地役権を有する旨確認し、各所有者は、それぞれその所有期間中、本件土地を通行の用に供していたが、そのことにつき誰からも何の異議の申出も受けていなかった。

(七)  以上の事実を総合すれば、本件土地につきその要役地所有者である原告らおよび参加人は、本件土地を継続かつ表現のものとして少なくとも一〇年以上通行の用に供してきたというべきである。

(八)  よって、原告平野は昭和五八年七月二四日、原告岡島は同年八月二五日、参加人は訴外久野久が時効取得が完成した日である昭和五九年三月六日、本件土地を原告ら所有地のために通行の用に供する地役権の取得時効が完成した。

原告らおよび参加人は本訴において右取得時効を援用する。

五  妨害排除

(一)  被告は昭和五九年五月ころ、私道部分のうち別紙検証見取図記載のを直線で結んだ線に沿って木杭の柵を設置し、これを鉄線で連結して原告らの通行を妨害した。

(二)  更に被告は、本件訴訟係属中である昭和六〇年二月一六日、突然、別紙検証見取図記載の線に沿って設置してあった木杭の柵と鉄線を撤去し、同所に竹製の垣根を設置して、原告らの通行を妨害する行為をした。

よって、原告平野は、同日、被告に対して右工事を中止するよう要請した。

(三)  被告の右行為は、訴訟中であるという当事者間の事情を無視したものである。

よって、原告らは浦和地方裁判所に対し妨害排除の仮処分を申請したところ(昭和六〇年(ヨ)第一五六号)、同事件は昭和六〇年四月五日和解(別紙検証見取図記載のを直線で結んだ線に沿って設置した竹製の垣根を排除するという内容)によって終了した。

(四)  しかし被告は依然として別紙検証見取図記載のを直線で結んだ線に沿って竹製の垣根を設置しているので、地役権に基づきその妨害の排除を求める。

(五)  また被告は昭和六〇年三月初め頃、別紙検証見取図記載のを直線で結んだ線によって囲まれた部分に横〇・五二メートル、縦一・九七メートルの木製のベランダ風の工作物を設置して、原告らおよび参加人の通行を妨害している。

六  仮に、被告の右行為が同人の所有権行使だとしても、これまでに述べた原告らおよび参加人の主張を総合すれば、被告の所有権行使は、権利の濫用であって認められない。

七  よって、原告らおよび参加人は被告に対し、本件土地につき地役権の確認、ならびに地役権に基づき原告らおよび参加人が本件土地を通行することについて妨害行為をしないこと、および竹製の柵とベランダ風の工作物を各撤去することを求める。

第二請求原因に対する認否

一  請求原因一の事実は認める。

二  同二の事実は認める。但し、地積は不知。

三  同三の(一)(二)の事実は認め、(三)の事実は不知、(四)の事実は否認、(五)(六)の事実のうち階段を築造した者とその時期は不知、その余は認め、(七)の事実のうち原告ら共有地が昭和四八年五月二一日分筆されたことは認め、その余は不知、(八)の事実のうち被告が昭和五三年二月二日訴外楠生聰から買い受けたことは認め、その余は争う。

被告所有の土地のうち、本件土地とその余の西側部分(宅地)との間には、階段部分を除き、これらを識別するに足る境界標識の存在しないことはもちろん、外観からも差異はない。従って本件土地の西側境界線は、現状に見合ったものではなく、単に二つの階段の東端を机上で直線で結んだ観念的なものに過ぎない。原告らは、被告が本件土地を取得した時点で黙示の地役権設定契約があった旨主張するが、この論法では、本件土地が転々譲渡される毎に新たな取得者との間に地役権が黙示的に設定されることになるが、このような見解は少なくとも判例上認められない。

四  同四の(一)の事実のうち原告ら及び参加人は前記一記載のとおり原告ら所有地を取得したことは認め、その余は争い、(二)の事実は不知、(三)の認否は前項と同一であり、(四)の無過失の主張は否認(本件土地を通路とする計画は、訴外伊藤藤夫が宅地造成、分譲する当初の段階ではなかったもので、訴外竹下武志も本件土地が他人の所有であることを知っていたし、昭和四八年五月二一日原告等が原告等の共有地を譲り受ける際には、本件土地について何等の権利のないことは知っていた)、(五)の事実のうち3、原告ら所有地のうち三、の土地を訴外伊藤藤夫から訴外菅清へ、昭和四九年三月六日訴外久野久へ、所有権が移転したものであることは不知、その余は認め、(六)の事実は争い、(七)の事実は否認(「継続」の要件を満たすためには、要役地所有者が通路を開設する必要があるが、本件土地の通路開設者は訴外伊藤藤夫であって、同人は当時本件土地《つまり承役地》の所有者であった)、(八)は争う。

五  同五の(一)の事実のうち、鉄線で連結して原告らの通行を妨害したとの点は否認し、その余は認め、(二)の事実のうち、原告らの通行を妨害した点は否認しその余は認め、(三)、(四)の事実は認め、(五)の事実のうち工作物を設置したことは認め、その余は争う。

第(三)抗弁

請求原因五、妨害排除の主張に対して

原告の請求原因事実については前記のとおり争うものであるが、仮に請求原因が認められたとしても、原告の木製ベランダ風の工作物の撤去を求める請求は権利の濫用として許されない。

即ち、当該ベランダは、被告の居宅勝手口に設置されているものであり、被告ら家族の勝手口と居宅北側及び南側の庭とを連絡する通路の一部となっており、家族の日常生活に必要不可欠な設備である。

他方このベランダがあることによって、原告らの通行にはほとんど支障はない。検証見取図によると、ベランダは階段上に約五〇センチメートル張り出しているに過ぎず、階段の有効幅員は、ベランダの西側で、二・二メートル以上あり、この程度の幅員があれば原告らの通行に支障を来さない。

本件通路を利用するのは、通常原告ら家族及び関係者だけの極めて少数であり、このことからしても、原告らの請求は権利の濫用として許されない。

第(四)抗弁に対する認否

抗弁事実は争う。

右工作物は階段の最上部に設置してあり、階段を上り下りする原告らおよびその家族にとって、極めて危険なものである。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因一、二の事実のうち被告の所有地の地積以外は当事者間に争いがない。又、同三の(一)、(二)の事実は争いがない。同三の(三)の事実は《証拠省略》によって認めることができ、これに反する証拠はない。同三の(四)の事実は、後に判断することとし、(五)、(六)のうち争いのある部分は《証拠省略》によって原告ら主張の者によって、主張の時期に築造されたことを認めることができ、これに反する証拠はない。

同三の(七)の事実のうち原告ら共有地が昭和四八年五月二一日分筆されたことは当事者間に争いがなく、その余の部分(本件土地が同時に分筆共有にできなかった事情に関する主張)を認めるに足る証拠はない。

同三の(八)の事実のうち、被告が本件土地を含む被告所有地を昭和五三年二月二日訴外楠生聰から買い受けたことは当事者間に争いがない。

二  そこで請求原因三の(四)の事実、即ち私道部分は訴外伊藤藤夫が宅地造成した昭和四二年六月ころから現在まで、通行のための道路として客観的に明確であり、右私道部分に隣接する要役地所有者が継続して通行の用に供されていたかどうかの点を判断する。まず、本件土地のうち別紙検証見取図記載のを直線で結んだ線つまり被告所有の土地のうち、本件土地とその余の西側部分(宅地)との間の境界が客観的に明確であったか否かを判断する。

右の線のうちの部分は、コンクリート造りの階段によって識別され明確であることは被告も争わない。又、直接の線上に垣根とか塀その他の明確に境界の標識となりうるようなものが存在したとの主張も立証もない。

前記争いのない事実および前記認定の事実を総合すれば次のとおりである。

原告ら所有地および本件土地を含む被告所有地となっているところは、昭和四一年二月九日当時訴外鈴木正太郎の所有する土地で、一筆の土地であったところ、昭和四一年九月ころ訴外鈴木正太郎は、同土地を訴外伊藤藤夫に売却した。訴外伊藤藤夫は同土地を宅地造成し昭和四二年六月ころから、同宅地造成した土地を本件土地を含む被告所有地および原告ら所有地に分割し、訴外株式会社大埼工業所等に売却した。私道部分は、そのころから、隣接土地所有者の通行のための道路として通行の用に供されていた。階段部分は、訴外伊藤藤夫が宅地造成した時に建造したコンクリート造りの階段である。右私道部分のうち別紙検証見取図記載の点と点を結んだ線上に設置されている階段は、訴外伊藤藤夫が宅地造成した時に建造したコンリート造りの階段である。

検証の結果によると、との間は一二・七五メートルである。《証拠省略》によれば、現在の被告所有地(一一一八番六)は宅地造成後、昭和四二年株式会社大埼工業所の所有となり、その地上に工場等の建物が建っていた。そして、原告平野輝雄の本人尋問の結果によればその建物の基礎がの線から三〇センチメートル(その他の証拠でも一メートル程度)くらい西側に存在したことが認められる。この建物は、被告が本件土地を含む被告所有地を昭和五三年二月二日訴外楠生聰から買い受けた当時にも存在していた。このことは《証拠省略》によっても確認できる。更に、《証拠省略》によれば、原告らおよびその原告ら所有地の前の所有者らは、本件土地が、雨が降ったりするとぬかったため砂利を入れたこと、草をとったことなどがあったことが認められる。

以上の事実を総合すると、の線は、数学的正確さはともかくとして、少なくとも、本件土地即ち通路とその余の被告所有地とを、日常生活上、区別することができる程度には客観的に明確であったということができる。まず、点はコンクリート造りの階段という比較的永続性、不動性の高いものの一端であり、これは点も同様である。しかも、宅地造成分譲後、殆どの期間、線にほぼ沿って、三〇センチメートルくらい西側に建物又はその基礎が存在したり、の間はわずか一二・七五メートルであるのでその二点を視覚的に確認し、それを結ぶ線を想定することは容易なことであるし、相当数の人が歩行し、砂利を入れたりしたため相当程度に踏み固められていたと推測される。地役権の存否を判断するには、の線は、必ずしも非常に精密な線として識別される必要はないのであって、社会的に見て、通路と宅地部分が識別出来る程度に達していれば十分と解する。

三  以上の事実をふまえて地役権設定の黙示の契約があったか否かを判断する。

原告ら所有地及び被告所有地及び被告所有地が元々一筆の土地であったものが、宅地造成後、分筆分譲されたものであることは前記のとおりである。そして、別紙検証見取図記載のを直線で結んだ線によって囲まれた部分(即ち私道部分)は、右で述べた宅地造成をした昭和四二年ころから、隣接土地所有者の通行のための道路として通行の用に供され、その範囲も客観的に識別出来、しかも、コンクリート造りの階段という通行のための永続的な施設まで設けられていることも前記のとおりである。又、原告らはこの私道部分を通行しなければ公道にでることができないし、その土地の形状からして容易に通路のための土地として識別できることが、《証拠省略》によって認められる。

被告本人尋問の結果によると、同人は、本件土地を買い受けるときは、の線に沿った建物の存在を含め、前記本件土地の客観的状態は認識していたことが認められる。しかも、自らも、自己の建物建築その他の工事(その工事後は、被告所有地と公道との段差部分を改良したため、直接公道に出られるようになった)中は、被告又はその工事人たちも原告ら共有地を含めて私道部分を通路として使用していたことが《証拠省略》によって認められる。

このような場合は、その分譲地の所有者となったものは、互いにその通路部分になっている自己及び他の者の所有地を通行のために提供し合う意思、言い替えると交差的な地役権の設定契約を締結をするという意思を有していると解するのが合理的である。そして、この意思は、将来分譲地の所有権の帰属が変化する場合も、その新たに所有者として参入した者と、以前から所有者であった者との間でも同様に解せられる。そして、この意思は、かかる状態の分譲地の所有権を有している、又は所有権を取得するということ自体によって表示されていると考えられる。

以上によれば、原告らおよび参加人と被告の間には、被告が本件土地を含む被告所有地の所有権を取得した時点において原告等の通行のために地役権設定契約が締結されたものと認められる。

よって、その余の点について判断するまでもなく、原告らおよび参加人の被告に対する、原告ら及び参加人が別紙物件目録(一)記載の土地につき同目録(二)記載の土地を要役地とする通行のための地役権を有することを確認することを求める請求は正当である。

四  請求原因五の事実(通行妨害及び竹製の垣根、木製のベランダ風の工作物の撤去を求める)ついて判断する。竹製の垣根、木製のベランダ風の工作物の存在は当事者間に争いがなく、それが通行の妨害になることも《証拠省略》により明らかである。

五  抗弁事実(権利の濫用)について判断する。

当該ベランダは、被告の居宅勝手口に設置されているものであり、被告ら家族の勝手口と居宅北側及び南側の庭とを連絡する通路の一部となっていることは《証拠省略》によって認められる。しかし、被告が主張するように、ベランダは階段上に約五〇センチメートル張り出しているに過ぎず、階段の有効幅員は、ベランダの西側で、二・二メートル以上ある、かどうかは検証の結果によっても必ずしも明確ではない。仮に、被告主張のとおりであったとしても、前記認定のとおり私道部分は、原告らにとっては公道にでるための唯一の通路であり、必ずしも人が歩ければ良いというものでなく、荷物の運搬その他の必要(現に被告も工事のとき車両を通す必要のあったことが甲第一号証の九によって認められる)も考えうるわけであるし、階段の最上部にあることは、通行の際に危険を生ずることも十分予測される。従って、このベランダがあることによって、原告らの通行にはほとんど支障はないという被告の主張は採用することはできない。

更に、被告は、本件通路を利用するのは、通常原告ら家族及び関係者だけの極めて少数であると主張するが、仮にそうであったとしても、前記事情を勘案すれば、原告らの請求を権利の濫用ということはできない。

六  以上によれば、原告らおよび参加人の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条、仮執行宣言については同法第一九六条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 鈴木航兒)

〈以下省略〉

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